指輪ケース~エメラルドグリーンの戀
行くなっ!
そばにいて欲しい!
俺を一人にしないでくれ!
現代ならこんな感じだったのだろうか。
遠距離恋愛をしていたという菊枝に 清一郎はどれほど多くの短歌やラブレターを送ったことだろう。
「任地遠く逢ふ機とてもまれなりきくやしさ」
「感情に抑制を欠くはしたなさ」
「情炎のやりどころなき」 (清一郎の手記より)
情炎? その意味は、「ほのおのように燃え上がる情欲。」と辞書にある。
清一郎の短歌には 菊枝にそばにいて欲しいという強い気持ちがあふれている。
えりいたく脂に汚れたる寝衣(ねまき)気にかかれども洗ふがうとし
床の中に煙草をば吸ふくせつきて我が独居にいくたびの夏 清一郎
そんな清一郎曰く 「清浄にして熱烈な戀愛行路の後」
ふたりはついに結婚した。
清一郎が準備した結婚指輪は布張りのケースに入っていた。
ケースの内側の「マリッド プレゼント」の文字の横に描かれているのは何だろう。
清一郎の似顔絵?それとも?
どんなシチュエーションでこの指輪を差し出してプロポーズしたのだろう。
ダークブルーのインクの滲みが想像力をかき立てる。
純金の指輪が収まった このビロードのケースの緑色はなんとロマンティックなのだろう。
七宝焼きの釉薬に「エメラルドグリーン」という色がある。
エメラルドグリーン・・・その美しい響き。まるで夢の中でしか出逢えないような色。
祖母、母、私と3代に伝えられた この90年以上前の「大戀愛の証拠」を
私は誰に伝えればいいのだろうか。
因みに清一郎は結婚後もかなりモテたらしい。
単身赴任の続く中、「歌の友敏子」や「美代子女史」「裸婦(絵のモデル)」が何度も短歌に登場する。
真夜深き湯槽の中に女と我と語らひもなし濡るる燈のもと 清一郎
女と我と?真夜深き湯槽の中に?
「女」って一体どなたですか?
「妻が嫉いた話」というタイトルの清一郎の手記を周囲は名文中の名文と評したそうだ。
男という生き物は、まったく・・・。昔も今も・・・。
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